今回は「ナイフの研ぎ方」と、それにまつわる話をお届けします。
はじめに「ナイフの知識」を、次に「砥石の知識」、最後に「研ぎ方実演」の順で紹介していきます。

ボーイスカウト、自衛隊、そして狩猟生活で学んだことを、できるだけ分かりやすい形でお伝えしますので、めげずについてきてください。

0.はじめに

万能ツールとも言われるナイフですが、使っているうちに「切れ味」が落ちてきます。
そのまま使っていると刃が痛んだり、時には「思いもよらない事故」が起こったりすることも。
そうなると、楽しくないですよね。

楽しく使い続けるには、「切れ味を復活させる」ために「ナイフを研ぐ」必要があります。
では、どのように研げばいいのでしょうか。

結論:ちゃんと切れる状態になっていればなんでもあり

身もふたもないですが、本当です。
とはいえ、世の中「定石」というものがありますので、ここではその定石を紹介します。

1.「研ぐ」ということ

アウトドアライフとは切っても切れない切る道具「ナイフ」。
分解すると、概ねこういう作りになっています。


図1.ナイフの構造(片刃、左利き用)

ナイフの「(ヒルトを含む)グリップから先」部分を「刃」と呼び、「刃先が食い込んだ後の切り進み」に影響します。
刃の端っこ、「対象に食いつく」部分を「刃先」と呼び、「刃の刺さりやすさ」「切れやすさ」に影響します。

「研ぎ」とは、砥石やヤスリ等を使って「刃と刃先の形を整える」ことです。

2.刃先のかたち

切れにくくなった時、ナイフはどのような状態でしょうか。
答えは「刃先が減ったり曲がったり欠けたりしている」です。

こちらの絵をご覧ください。


図2:刃先の初期状態、損耗時及び刃研ぎ後の形状

最初は左のようにとがっているのですが、使うにつれてだんだん変形して、真ん中のようになります。
こうなると切れないので、右のように刃先を研いで鋭く整えます。
※研ぐと刃が少し減ります。意外に重要なポイントです。

続いてこちらの絵を見てみましょう。


図3:主な刃先角度(表記数値は刃軸線と刃先外縁のなす角)

刃物は、刃先の角度で「切れやすさ」が変ります。

下に、刃先角度と代表的な刃物を並べてみました。
10度: 床屋さんのカミソリ
17度: 細工包丁
20度: 和包丁
25度: ナイフ
30度: ナタ、手斧
45度: 斧、シャベル

角度が浅いとよく刺さるのですが、刃先も弱くなりすぐ切れなくなります。
角度が深いと刺さりが鈍くなりますが、長い時間同じ調子で切れる刃となります。

気を付けてほしいのがが、「刃先の先端が切りたいものに当たっていないと切れない」ということ。
シェービングで刃が滑るときは「刃先が当たっていない」ことがほとんどです。
適切な角度に「刃を立てる」を意識してみてください。

3.刃のかたち

刃の形状には、このような種類があります。
※両刃の場合


図4:刃の断面形状

左から、
a.ホロウシェイプ
b.フラットシェイプ
c.スカンジシェイプ
d.コンベックスシェイプ(≒蛤刃)
e.シャーシェイプ
と言います。

a.はハンティングナイフでよく見かけます。
研ぎ減っても切れ味があまり変わらないのが特徴で、柔らかいものを切ったり、何かを削ったりするのに便利です。
刃の強度は「あまり強くない」印章です。

b.はナイフを含む多くの刃物で使われています。
万能選手といった位置づけで、どんな用途にも使えて便利です。
刃の強度は「普通」です。

c.はナタや斧といった「割り」に使う刃物で使われることがあります。
研ぎで刃先が作りやすく、現場での修正がやりやすい印象です。
刃の強度は「強い」のひとこと。

d.ですが、正確には「刃」ではなく「刃先」の形状になります。
このシェイプだけ、「曲線」になっています。
刃先の厚さが確保できる = 強いので、日本刀はこの形をしています。
和の鉈や斧でもよく見かけ、割る形態がc.と異なり使い比べるとなかなか面白いですね。

e.ですが、「剪断」する道具で使われるもので、ナイフとはほぼ縁がありません。
一応「刃物」ということで紹介しておきます。

刃の形状は「元の形」を維持するのが原則ですが、用途が変わる等でシェイプを変えたくなることもあります。
その際、自力でできないことはないのですが、ここは専門店等に頼むのが無難です。
こちらの要望や好みを聞いて、見事に変身させてくれます。

また、刃と刃先の組み合わせ方で「切れ味」が変わります。
これは用途と好みが多分に影響しますので、是非「自分のスタイル」を探し、見つけてください。

4.砥石について

さて、ここまでは「ナイフ」についての説明でしたが、この章は研ぎの「相方」、「砥石」のおはなし。

砥石は大きく「水砥石」と「油砥石(オイルストーン)」に分けられます。
刃物を研ぐ時、砥石に「液体をつけて(浸して)」使うのですが、文字通り「水」を使うのが水砥石、「油」を使うのが油砥石です。
水砥石は和刃物、油砥石は洋刃物に使われることが多い、というか、日本は水砥石、欧米は油砥石を使う文化と産出状況であった、という事情です。

こちらをご覧ください。私が普段使っている砥石のみなさんです。


図5.様々な砥石

左3つが水砥石、右3つが油砥石になります。
※真ん中のケースに入ったものも油砥石ですが、使い方が独特な「面白い」ツールです。
※「LANSKY」「ランスキー」でググってみてください。売っています。
※油砥石は概ね24歳になります。

水砥石と油砥石の特徴的違いとして
・水砥石は比較的減りやすく、削れた砥石の粒と水が混ざって「砥汁」となり、この汁が研ぎに役立つ
・油砥石は比較的減りにくく、研ぎにかかわるほどは砥汁が出ない
が上げられます。

「水砥石」を使うときは「1本研ぎ終わるまでは洗わずそのまま」くらいのイメージを持ってください。仕上がりがまったく変わります。
※刃先をノコギリ状にするために水をかけない、という手法もありますが、かなり特殊な上に砥石がものすごく減るので、普段はやりません。

私は
・ナイフと洋鉈、手斧は油砥石
・包丁と和鉈(剣鉈、ナガサ等)は水砥石
・マチェット、斧、シャベル等の大物は電動グラインダー
と使い分けています。
※刃先の立て方と地金の種類によってはこの限りでありません。

図に「荒」「細」と書いていますが、砥石表面がどれだけ荒いか、で分類しています。
右側の油砥石さんたちでいうと
・右端の石は2枚合わせ、右が荒砥で左が中砥
・真ん中は仕上砥
・左は超仕上砥
と言います(メーカーや人によって呼び方が違います)。

砥石の粗さは「#120」のように「数字」を使って表すこともあります。
この表し方を「番手」や「粒度」と言いまして、「数字が小さいほうが大粒で表面が荒い」となっています。

「数値の基準」ですが、実は国やメーカーにより異なります。
米国製油砥石と日本製水砥石だと、同じ番手でも荒さが違うことがほとんどです。

一般的には、荒:~220番、中:~1200番、仕上:~2500番、超仕上:2500番~ と分けられていますので、目安の一つにしてください。

たくさんあってややこしいですが、普段は中砥と仕上砥で、刃先の欠け修正は荒砥で、という風に、「どれだけ刃・刃先を削るか」で使い分けると安心です。

砥石を買うなら、最初はナイフを持ってお店に行き、実際の使い方等を相談しながら選んでください。
店員さんも「数寄者」が多い世界、間違いなく楽しい時間になります!

5.ナイフを寝かせる角度

やっと「研ぎ」の話になりました。

研ぐときは、当然「ナイフと砥石を接触させる」、「ナイフを砥石の上にのせる」ことになります。
このとき「どのくらいナイフを寝かせるか」で、刃先の形が決まります。


図6:ナイフの寝かせ角(30度の場合)

寝かせる角度を保ってナイフを研ぐのですが、これが研ぎ初心者には最初の難関となります。

多くの場合刃が揺れて、角度が深いコンベックス = 切れないナイフになります。

しかし。大丈夫。諦めないでください。
この「角度を保つ」ための「ひみつ道具」が売られています。
「トグリップ」や「スーパートゲール」でググってみてください。

ひみつ道具で寝かせ方を覚えたら、自分で好みの刃先を作れるようになります。

6.ナイフを置く向き
ナイフの寝かせ方で刃先の角度が決まりますが、もう一つ重要な「砥石とナイフの角度」があります。
こちらの画像をご覧ください。


図7:砥石とナイフの開き角

上のナイフと下のナイフ、どちらが「良い」置き方・研ぎ方でしょうか?

答え:上
下のやり方だと刃先に「段差」ができたり「ノコギリ状」になったりと、切りづらいナイフになります。

「定石」は上のやり方、「砥石とナイフに角度を付ける」。
一般的には、砥石軸線とナイフ軸線が「45度~60度」になると良いとされています。
※絵は角度を浅くしています。私の好みです。

7.ナイフの動かし方

ナイフと砥石の位置合わせができたら、次は「動かし方」です。


図8.ナイフを動かす方向

ナイフは「黄色い矢印」の向きに動かします。
水砥石は「押す」、油砥石は「引く」と言われています。
砥石の種類ではなく刃物の種類(和は押す、洋は引く)で分ける場合もあります。
最初のうちはこの「定石」通りやるのがいいと思います。

刃の全長を一度に研ぐのは難しいので、砥石の幅と相談しながら何か所かに分けて仕上げます。

慣れてきたら、「赤い矢印」の向きに「滑らせる」動きを加えてみてください。
「お作法」ではありませんが、切れ味をがらりと変えることができます。
※試してみて気にいれば続けてみる、くらいの心持でお願いします。
※刃が寝がちになることが多いので、その点ご注意ください。

「刃がまっすぐな部分」は上記を繰り返して研ぎます。
刃がカーブしている部分は「砥石の上で『の』の字を書く」ように動かします。

今回はここまでで、次回はいよいよ研ぎ方実演を紹介するのでお楽しみに!

続き:【必見】切れ味を復活させる正しいアウトドアナイフの研ぎ方解説!「研ぎ方実演」編

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